Winter Kept Us Warm, Covering

by N.G. Barbaroi

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about

死んでいる音楽





例えば、殺人事件が起きる。渋谷のホテルで売春婦が殺される。
ベッドの上に、女が横たわっている。裸で、股を開き、
首には絞められた跡が残っている。彼女の身体は硬直している。
彼女は死んでいる。もう一度言う。彼女は死んでいるのだ。
彼女は、死んだ状態のまま、いる。その言い方は現在進行形だ。
彼女は死んでいる。「ひどい事件だ」みんながそう言った。

当然、誰もがいつしか死んでしまう。
生と死。始まりと終わり。ONとOFF。
その後はない。死は、次の瞬間には無に変わる。そのはずだった。
少なくとも、生きている僕らに、死者の国のことはわからない。
死者は、ただの死者なのだ。
しかし、もう一度言う。彼女は、死んでいる。
死んだ状態のまま、この世界に、いる。

ドアの前で二人の男が何かを話している。

そのまわりを鑑識が忙しなく動き回っている。
男は刑事だった。彼らは彼女のことを話している。
彼女を殺した犯人のことを話している。
彼らは彼女の鞄を開ける。ペンと、ほとんど書かれていない日記と、
iPodと、着替えと、チョコレートが入っている。
手がかりになりそうなものはほとんどない。
彼らは彼女の携帯電話をみる。
全てのアドレスに、一つ一つ目を通す。
途中で、彼女の両親の連絡先を見つける。
彼らは彼女の死、を報告する、彼女の物語はまだ終わらない。
彼女は、まだ、死んでいる。

 彼女は、まだ、この世界に留まっている。留めさせられている。

 首を絞められながら、彼女は夢を見た。
あるいは走馬灯。彼女の見ている風景。
町は廃墟になっている。過去の町。
そこは、もうずっと前に忘れられてしまったのだ。
彼女はそこに立っている。僕たちは、音楽を聞いている。
廃墟のような音楽。「死んでいる音楽」便宜的にそう呼んでみる。



 Winter kept us Warm, covering
  Earth in forgetful snow, feeding



 咳払いをしてみました。
それは、ふっ、と風景の奥に消えて無くなって、食べられてしまいました。
 辺りは静かでした。静かすぎました。

それは、もう死んでしまったものが持つ静けさでした。
私は次に、「はっ」とか「あっ」と、短く叫びました。
それが反響して、聞こえることを期待していました。
けれども、私の声は、口の先から、ふっ、と

どこかに飲み込まれてしまうのです。
空気が澱んでいました。いや、澱んでいるだけではありません。
空気自体が、死んでいるのです。
ここではもう、時間自体が流れていないのです。

 地面には、コンクリの破片が飛び散っています。
点在する校舎のような建物は皆、全てのガラスが割られ、
内側は、黒くて見えませんでした。
建物から細長い鉄柱が何本も突き出ていました。
遠くに橋が見えました。橋の、残骸が見えました。
それは真ん中で崩れ落ち、二つの巨大な植物のようでした。
根の辺りを何かが流れています。それは川のように見えるのですが、
流れているのは、水ではありませんでした。
蟻のような、たくさんの黒い点の塊が、

巨大な植物の間を行ったり来たりしていました。

 私は大きく声を出しました。
「あー」とか「わー」と叫びました。
 私の声は、口から出た瞬間に死んでいきました。
それが、空中に浮かんでいるのが見えました。ただ、見えるのです。
池に捨てられた子猫のように、浮かんでいるのです。
 二、三歩前に進むために、私は空中に浮かぶ死んだ声を
手でかき分けなければなりませんでした。
 空は雲一つない青空でした。不思議なことですが、
空が青ければ青い程、建物の中の闇は、濃くなっていきました。
 私はその場に座り込んでしまいました。
どれくらいの間、そうしていたでしょう?
私は、とても遠い場所にいました。
誰からも遠く離れた場所にいました。
私は孤独でした。押しつぶされそうな孤独です。
私は、膝を抱えるように座っていました。
膝の間には、鞄がありました。
わたしはこの時まで、自分が鞄を持っていることさえ
すっかり忘れていました。

 鞄には、買ったばかりの日記と、ペン。それに下着が入っていました。
その、レースの付いた黒いパンツさえ、ひどく懐かしく思えました。
ガーナチョコレートが入っていました。そこには、文明の匂いがありました。
その赤色のパッケージには生きているものの温かみがありました。
そして、私は鞄の奥に、iPodを見つけました。すぐに再生ボタンを押しました。
小さなイヤホンから音が流れ始めました。Pixies の「Hey」でした。
ブラック・フランシスのかけ声から曲が始まりました。
それでも、音はイヤホンから出た瞬間に死んでいきました。
私はイヤホンを手に持って、音量を最大にしました。
ブラック・フランシスの声は歌った瞬間に
どんどん死んでいきました。
それが、どんどん空中に浮かんでいきました。



 Hey
 been trying to meet you
 Hey



 ブラック・フランシスは誰かを求めていました。
誰かを呼んでいました。そして、その歌は、どんどん死んでいきました。
それが、空中にたくさん浮かんでいました。
音楽はどんどん死んでいきました。


 If you go I will surely die
(君がいなくなったら僕は死んでしまう)
 we're chained... we're chained... we're chained...
(僕らは鎖でつながれている。そう決まってる。そう決まってるんだ)


 今では、それがたくさん空中に浮かんでいました。
音楽はまるで、雪のように空中でヒラヒラとしていました。





 最後に、ミニアルバム「Winter kept us warm, covering」について。
「死んでいる音楽」あまりいい名ではないかもしれないが、
便宜的にそう呼んでみる。それは現実と廃墟の間にあった。
あるいは、過去と現在の隙き間で鳴っている。
時々ぼくらは、ひどく孤独になる。
                                February 2010 じゃじゃまる

credits

released March 15, 2016

NG plays guitar,effects, turn table
Produced by NG
Almost sons written by NG (CC) 2010NGO
Recorded at West TOKYO Wed,03 Feb 2010
Special Thanks to じゃじゃまる

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